さて、待ちに待ったワインの試飲です。マアルーラに商業的なワイナリーはなく、商店主や一般の方が、自家製のワインを空瓶に詰めて販売しており、50人ほどがワインを作っているそうです。
ブドウを天日干ししてから発酵させるのが伝統的な製法で、ほとんどは甘口のワインになります。同じような製法のワインとしては、キプロスのコマンダリアが挙げられます。作り方は至って原始的で、天日干ししたブドウを圧搾機にかけた後、樹脂製のタンクに移し、30-45日ほど発酵させ、濾過をすれば完成です。熟成はせず、ほとんどは年内に飲み切るようです。化学物質と無縁のこの地では、亜硫酸塩はもちろん、酵母も加えずに作っています。醸造家によっては、赤用と白用のブドウを混ぜることもあるようでした。このような製法は、シリア各地に見られるとのことです。
マアルーラ産のブドウも使いますが、まだ生産量が少なく、南部のスウェイダーや中部のホムスといった、よその農家からブドウを買って作ることが多いそうです。ブドウ品種は聞く限り、土着品種のみのようでした。マアルーラで栽培されるのは、レバノンとも共通する白ワイン用ブドウのオベイディ、スウェイダーでは、赤ワイン用のアスワドという品種が主に作られます。アスワドとはアラビア語で黒のことです。安直な気がしますが、キプロスにもギリシャ語で黒を意味する、マヴロという品種があります。
早速、SOSメンバーの案内で数人の醸造家を訪ねていきます。多くは甘口で、ブドウ自体の成分が凝縮されており、古代のワインを想起させる趣がありました。上質なものは滴る宝玉のようで、神の雫とはまさにこのことかと思いました。ただ、醸造の腕前は人によってまちまちで、酢のようになった不味いワインも売られていました。
ワインでなく、アラクも作られていました。アラクは、東地中海で一般的な蒸留酒で、トルコではラク、ギリシャではウゾと呼ばれます。多くはブドウの搾りかすから作られますが、リンゴや小麦、ナツメヤシから作る地域もあるようです。アニスシードで風味付けされており、清涼感があります。アルコールは40度以上ありますが、大抵は3倍くらいに割って飲むので、強さを感じることはさほどありません。この蒸留設備は、SOSの支援により寄贈されたそうです。
一通り見て回り、とても気に入った醸造家を見つけたので、SOSのメンバーに伝えたところ、幸いにも醸造家からも承諾を得ました。後日、輸出の段取りについて詰めていきます。
この日の予定を終え、宿舎に戻って夕食を済ませると、丘の上の修道院を案内されました。滞在中はここに泊めてもらえるそうです。アレクサンドルの粋な計らいに感謝です。