この日から、いよいよシリア各地を回ります。内戦勃発から7年が経過し、劣勢となっていた政府側が盛り返し、反体制派やISの支配地域を徐々に制圧している時期でした。虫食い状に各勢力の支配地域が入り乱れた状況は解消され、戦線は以前と比べ局所的になりつつありました。とはいえ、都市部の治安は比較的落ち着いていたものの、依然として前戦では睨み合いが続き、ときに激しい戦闘に発展します。当然ながら、前線を越えて別の勢力の地域には行けません。よって、レバノン経由で入域した私が今回訪問できるのは、政府側の地域のみとなります。
SOS Chretiens d’Orientの宿舎は、主要都市のダマスカス、アレッポ、ホムス、住民の大半がキリスト教徒であるマアルーラと、その東の砂漠に位置するサダドの計5箇所です。ここを拠点に各地へ赴き、現地の代表者から緊密に聞き取りを行い、状況に応じた支援を行っています。ある場所では教育の提供、ある場所では住宅の修復作業、ある場所では食糧支援といった具合です。ボランティアの隊員の車に私も同乗し、初日はまずマアルーラに向かいます。
ダマスカスからマアルーラへは、平時であれば45分ほどですが、2018年3月の時点では、幹線道路に隣接するドゥーマーを中心に反体制派の陣地があり、迂回する必要がありました。来た道を一旦レバノン方面に戻り、ダマスカスを見下ろすカシオン山の裏手を抜け、危険地域をやり過ごしてから、北に向かう幹線道路に合流するため、20分ほど余計にかかります。道路沿いでは、バスに乗り込む大勢の人々を見ました。先日停戦合意が成立したばかりの、ハラスターから退去する住民とのことでした。
ダマスカスの郊外を出ると人家は減り、途端に荒涼とした風景に変わります。ダマスカスの繁栄は、バラダ川とグータオアシスの賜物ということでしょうか。幹線道路をホムス方面にしばらく走り、途中で左の脇道に入り、村を1つ過ぎてさらに少し進むと、マアルーラに到着しました。
マアルーラは、キリストが話したとされるアラム語が現存する、世界でも数少ない町です。内戦の影響はほぼ全土に及び、ここも例に漏れず戦場となりました。2013年から2014年にかけ、2度に渡りアルカイダ系の武装勢力に占拠され、住民に犠牲者が出たり、複数の修道女が拉致されたりもしたそうです。破壊された修道院のニュースが出回った際には、もう見られないものと思っていました。それだけに、こうして訪れられたことに感無量です。